シャープと鴻海(ホンハイ)の企業文化の生かし方

 先日、大塚商会さんのセミナーで前Google日本法人代表取締役 有馬誠氏の「加速するIT革命・イノベーションを実現する企業文化とは」という話を聞きました。その中でGoogleのイノベーションを起こす企業文化(カルチャー)として幾つかのことを挙げられましたが、私には次の4つが頭に残りました。

・未来を自ら創る驚異のトップ

・データによる判断を尊重する会社

・徹底した情報共有

・自発性を重んじる

 想像の域を出ませんが、恐らく鴻海(ホンハイ)精密工業は同じような企業文化を持った会社だと思います。強烈な個性と未来を自ら創る驚異のトップ、鴻海の郭台銘(テリー・ゴウ)董事長のトップダウンの指示だけで売上15兆円の会社が動くわけではありません。正確なデータによる判断ができ、情報を共有し、社員の自発性を重んじているからこそ、鴻海は急成長をとげ、莫大な利益をあげることができたと思います

 鴻海によるシャープの買収は330日それぞれの取締役会で最終決定し、42日に買収契約を結びました。シャープは225日の臨時取締役会で鴻海傘下入りを決めましたが、それまでは革新機構と天秤にかけていたわけですから、実質的にはこの日に鴻海に独占交渉権を与えたことになり、革新機構が去った後の条件交渉は大変厳しいものがあったと思います。革新機構がいる間に、鴻海に優先交渉権を与え、224日に提示した偶発債務などもっと早く出していたら違った結果になったと思います。払い込みの最終期限の105日までには株主総会での承認や独占禁止法の審査をクリアーすることが残っています。iPhone販売の減速が鴻海の業績を直撃していること、シャープの20163月期決算が大幅な赤字になることも波乱要因です。鴻海とシャープの協力関係が真価を問われる半年間になるでしょう。

 「シャープの事情や鴻海に責任のない事情が原因で買収契約が破談になった場合、鴻海はシャープのディスプレー事業を購入する権利がある」との追加条項に対し、シャープの社内で「鴻海は有機ELを含めたパネル事業を獲得することだけが狙いではないか」との声も出始めた、という報道もありますが私はそうは思いません。

 鴻海の郭台銘董事長が考えていることが、多くの発言や報道で大体読めてきました。 一番目はiPhoneEMS(electronics manufacturing service電子機器の受託生産)が事業の殆どを占める鴻海の当面の業態を守るために、サプライチェーンを確固たるものにしたい。最も重要なことは液晶パネルで量・品質ともに世界一になることです。 堺ディスプレイプロダクトとシャープの液晶事業(有機ELを含む)に加えて、台湾の群創光電、中国で建設中の2社の工場がシャープの技術を入れて品質を高めると、大型パネルでも中小型パネルでも世界一のシェアーが見えてきます。二番目はEMS事業を製品の多様化とODM(Original Design Manufacturing設計・生産の受託)によって拡大すること、それに中国に偏った立地の分散です。シャープの存在は技術面でも立地面でも顧客に安心感を与えるでしょう。三番目はIoTを組み込んだスマート家電・ヘルスケア・ロボティクス・スマートホームなどの分野の成長をシャープに期待していると思います。鴻海とアリババの提携は海外での市場開拓に役立つでしょう。42日の記者会見前にシャープの「エコハウス」の見学会も開催されていますが、この分野への熱意が見えます。アップルも関心を示すでしょう。四番目は鴻海のコアビジネスから外れる太陽光電池事業の再編・処分の問題です。材料のシリコン調達に関するシャープの高値契約や台湾の友達光電の原料メーカー買収での失敗などが頭にあったのかも知れませんが、エコハウス(スマートホーム)の太陽光電池の調達方法などで再考の余地があるかも知れません。

 3月1日の読売新聞に「SHARPの選択 社風正反対 多難な融合」という見出しの記事が載りました。シャープ株式の約66%を鴻海が握るわけですから、社風(企業文化・カルチャー)は基本的には鴻海のカルチャーを受け入れることになるのでしょう。それは高橋社長のいうこれまでの「けったいな文化」と決別し、シャープ本来の企業文化(起業家精神・創造重視・時代の先端に挑戦)に戻るということではないかと思います。シャープの今後の発展には郭台銘董事長の強烈な指導力とグローバルな展開、鴻海の何事も迅速にやり遂げる企業文化が役立つでしょう。

 シャープの垂直統合型と鴻海の水平分業型ではビジネスモデルが全く違います。郭台銘董事長は最強のコラボモデルを考えているでしょう。うまくいけば日本の大手電機メーカーが世界の本流に追い付くチャンスが生まれるかもしれません。何よりも日本の製造業の空洞化を抑えることに貢献すると思います。この10年で国内生産金額が半分以下に凋落し、貿易収支も赤字転落した日本の電子産業を何とかしなければなりません。「シャープの技術はすばらしい」という話をよく聞きます。シャープの技術開発力を生かす企業文化は郭台銘董事長も当然考えているでしょう。国際的に通用する新しい企業カルチャーを育て、シャープが発展していくことを期待しています。シャープの皆さん、シャープの協力企業の皆さん、頑張ってください。大阪の一中小企業からのエールです。

参考:社長ブログ「シャープの行方 2016年2月12日

 

(2016年4月15日 田村寛人)

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